raytrek(レイトレック)は、東京カメラ部のサポートのもと、“わたしの唯一”をテーマとした『第6回 レイトレックフォトコンテスト』を2022年12月22日~翌年3月30日に開催し、「最優秀賞」「井上浩輝賞」「別所隆弘賞」を選出しました。最優秀賞を受賞されたのはsakiland.jpさん。最優秀賞受賞を記念し、審査員を務めた井上浩輝さんと別所隆弘さんをお招きし、対談が行われました。

この度は最優秀賞の受賞おめでとうございます。
ありがとうございます!
まず審査時の様子はどのようなものだったのでしょう。
話すことがないくらい一瞬で終わりましたよね。
そうそう。これだよね? そうだよね? そんな感じで決まりました。
せーので井上さんと指を指したら一緒でした。史上稀に見る完全一致で、これしかないよねという感じでしたよ
今回のフォトコンテストのテーマは『わたしの唯一』だったのですが、いわゆる桜が咲いていて、女の子が幸せそうにしているという写真は、あるひとつのカテゴリとしてあると思うのですが、この撮り方、この幸せ感、希望が満ち溢れている雰囲気は、まさに『唯一』だと感じました。
唯一感がいくつも重なっていますよね。ご両親にとっては娘さんって自分の唯一の存在ですし、おそらく小学校入学のタイミングだと思いますが、それも人生で唯一。幼稚園入園とも中学高校への入学ともちょっと違う。ランドセルを背負うのってやはり象徴的じゃないですか。
人生における唯一感というのが写真から溢れているんですよね。希望に満ち溢れている写真は見ているだけで幸せじゃないですか。ある画商の方が言っていたんですが、どんな写真が値上がりするかというと、写真の中に希望があるものだと。まさにこの作品のような写真のことですよね。
小学校入学のタイミングで撮ろうと思っていたんですか?
ランドセルと桜と子どもという組み合わせの写真は絶対に撮りたいと思っていました。ただ、これは土手で撮っているのですが、ここで撮りたいなくらいには考えていたものの、具体的な構想はなく、動きのある一枚が撮りたいなぐらいに思っていました。細かい指定はせず、ただ『ジャンプしてくれる?』とお願いして撮りました。
何回もジャンプしたのですか?
実はファーストジャンプです。
それはすごい。より写真が素晴らしいものに見えてきます。思いつきでやった一度のジャンプというのも、また『唯一』ですね。写真を見ていて思ったのですが、背景は青空ですよね。ちなみに風景写真はお撮りになりますか?
いえ、撮ったことがありません。
“青空”って風景写真を撮る人にとっては手も足も出ない相手だと思ってます。井上さん、青空って苦手じゃないですか?
今青空は僕も苦手ですね。今日はみごとに晴れていますが、ここに来る前に青空を活かした撮影をしてきたのですが、ライフワークであるキツネの撮影を、この青空の日にするかというと、それはしないでしょうね。
風景写真の場合、どうしても空に雲の表情を入れたくなるんですよ。でも、この作品の場合は雲があったらダメ。青空、桜、娘さんがジャンプしているという3ピースが揃ってこその写真で、これ以外何かがあってはいけない。だから浮遊感を出すために地面もいらない。雲ひとつない青空であることで一層完璧に強調されていますよね。風景写真家の僕にとっては勉強になりました。
設定したF値も風景写真をやっている人とは違いがありますね。風景やっている人だったら、お子さんと桜を被写界深度の中に確実に入れたいと思ってF8くらいまで絞ると思います。これ堂々とF2.8ですよね。計算をしたら、お子さんまでの距離が仮に15mくらいだとしたら、7~8m離れさえすれば後ろは無限遠全てピントが合うんです。つまりF2.8は正解なんですよね。1/4000秒のISO100で画質も良くなるしピタッと止まるし完璧。怖がってF8まで絞ってしまうとISO1600になってしまいますからね。
レタッチはされているのですか?
高く飛んでいるように見せたくて、思いきりトリミングしています。背景にはビルの写り込みもあったので、それも消してしまいました。とにかく青空で背景を埋め尽くしたいなって。
桜の花の日の当たっていない暗い部分はレタッチしましたか?
特に左の桜はローアングルから撮っているために暗く影が出てしまったので、部分補正で明るくしています。
アニメにも出てくるくらいキレイに発色が整えられていると思います。風景写真の世界の場合、コントラストを強くしてハイライトを目立たせたりしますが、人物写真の場合はふわっと見えるくらいの輝度に落ち着けてあげるのは大事なんだなと感じました。
青空はイメージよりも濃く写ってしまったので、ピンクの桜の花に似合うように、とにかく青を優しく、マイルドになるように心掛けました。
娘さんにはワンスポットで光が当たっていますが、まったくキツく見えない。配慮がとても行き渡っています。
それでは、他の作品も見ていきたいと思います。まずこちらの卒園式の写真です。

息子の卒園式の写真です。男の子なので、娘みたいにポーズは取ってくれないものの、息子の写真もたくさん撮っています。この写真はかなり思い出深い一枚ですね
この、息子さんが泣いてる写真もいいですよね。井上さんも『希望』という言葉をおっしゃっていましたが、その時に浮かんだのがこの写真でした。卒園式で子どもが泣いている写真というのは、生まれたときからの思い出がよみがえったり、これからの人生への期待などが入り混じり、大人にとっては正に希望かな。 横にいるのは先生でしょうか。目線がいいですね。子どもに向ける優しい目線です。そして、この写真も構図がきれい。

こちらの写真は緑の処理がすごくお上手ですよね。
うれしいです、ありがとうございます。それはかなり意識している部分です。
緑の彩度を落としてますよね。緑って人間がもっとも違和感を覚えやすい色なんです。変にいじると破綻するし、彩度を落としすぎると褪せているような生気のない色になる。絶妙に維持されています。
ネイチャー写真では、緑を独特な表現にすると、誰が撮った写真か、わかってもらえるひとつの要素になります。sakiland.jpさんの写真すべてからそういう配慮が感じられ、作風がしっかりとされているのが素敵だなと思いました。

娘さんの洋服が整えられていますよね。きちんと被写体として成立する服。つまり、ある程度は撮影を念頭に出掛けているのだろうなと思うんです。娘さんは喜んで付いてきてくれるのですか?
正直、喜ばない時もあって、必ず撮影と楽しいことをセットにするようにしています。例えば東京ドイツ村などで撮ることもありますが、いっぱい遊ぶことを約束する代わりに、『最初は可愛いお洋服着てやってくれるかな?』と提案しています。
撮影自体はそんなに長くないのですね?
もう少し撮らせてほしいなって思うこともありますが、そういう時は写真に顔の疲れが出てしまっていますし、わたし自身、お願いベースになると楽しくなくなってしまうので、あまり時間はかけないように心掛けています。
子どもの撮影では大切なことですよね。そのような技術は学ばれたのですか?
特に教わったなどということはありません。でも、娘が1歳くらいの時から写真を撮りに出掛けていますから、早く撮れば早く遊べる、というのは理解しています(笑)。
このような写真をたくさんお持ちの子どもたちも『唯一』ですよね。
わたしの最大の目標は、子どもたちの結婚式にこれらの写真を使ってもらうことなんです。いつまでこうした写真を撮らせてもらえるか分かりませんが、撮らせてもらえるうちは続けたいと思っています。
愛用のカメラとレンズは何ですか?
いまはSONY α7IVをメインで使っており、レンズはずっと単焦点です。特に85mmを取り憑かれたかのように愛用していますが、あまりにもボケすぎて何を撮っても同じに見えるなと思ってしまい、いまは『引いて撮る』『ある程度は絞って撮る』ということを意識しています。
感覚として35mmの画角がお好みのような気がします。少し風景写真っぽくもあるんですよね。要素をどこに適切に配置するかを考えていらっしゃる。他の要素を排除し、人物を美しく見せるというポートレートとは違うなと感じました。風景の中に娘さんがワンポイントでいる。いずれ巣立っていく未来が待っているかのようなところまでを見据えているかのようにも見えます。
sakiland.jpさんのこれからの活動に、審査員のおふたりはご意見ありますか?
大きくプリントってされてますか?
季節感のある写真が撮れたりすると、A4サイズにプリントして額縁に入れて飾っています。
井上「A4と言わずにA2くらいにすると、sakiland.jpさんが得意とする引きの構図やポツンと人物を配置した構図の写真が、とたんに大きなパワーを持つと思います。引きの写真はInstagramやTwitterでは“いいね”が付きにくい写真ですが、写真展をすると、ポツンとした構図の写真はみんな足を止めて長く見てくれて、印象に残ったと言ってくださるんですよ。ですから一度A2以上の大きさにプリントアウトして楽しんでいただければなと思いました。ただ注意したいのは、大きくプリントをすると明るく見える、小さくプリントをすると暗く見えるという錯覚があること。この調整を自分でやっていくとドツボにハマっていくので、プロラボなどにプリントを依頼し、プロに任せてしまったほうがいいと思います。ディスプレイはキャリブレーションされていますか?
はい、しています。
それならば、なおさらプロラボにデータを持ち込むだけで大丈夫です。
その場合、ディスプレイの輝度を一定に設定しておくといいと思います。僕の場合は輝度35に設定しています。そうすると見え方が一定になり、画像編集時の目安になってくるので。そして、展示はぜひやってみてください。そして在廊してみてください。そうすると写真の世界が広がるんです。写真にはSNSの文化とプリントの文化があって、そのふたつがとても大事。展示をすると、自分の写真の前で何分間も立ち止まってくれる人がいて、そして写真を撮った人を探してくださる方がいるんです。その時間と深さは計り知れない。sakiland.jpさんが今後写真をやっていくにあたって、大きな財産になると思います。
あと、動画にも挑戦したいという気持ちがあるのですが、なかなかいまは踏み出せず…
Instagramを拝見しましたが、撮影場所で数秒の動画を撮り貯めていき、音楽にのせて季節の移ろいを見せていくだけでも十分に語れますし、少ない負担で動画にチャレンジできます。いつもの撮影に少しプラスするだけ。買い足す機材は動画用のシャッタースピードにするためのNDフィルターだけです。
ジンバルを使わず、手持ち撮影でも対応できますか?ジンバルは荷物的に限界だなと思っていまして。
接写の場合やフィックスで撮る場合は三脚を使ったほうがいいですが、α7IVであれば強力なボディ内手ブレ補正が付いているので、手ブレ補正付きのレンズと合わせて使えば、ジンバルを使うことなく撮れると思います。自分が撮りたいと思ったシーンを写真で撮ったら、その後に数秒動画を撮っておき、同時に近くにある印象的なもの撮り、最後は編集で料理すればいいんです。
最近は『ワンカットムービー』という言い方もしますが、写真を撮った場所に三脚を立て、写真とは違う動きのある瞬間を動画で撮っておくだけで、ひとつの短い作品ができあがります。受賞作などはまさにそういうのに向くはず。まずはリール、TikTok、YouTubeショートなどから始めればいいかなと思います。今回の最優秀賞の副賞であるraytrekのノートPCがあれば、動画編集もストレスなく行えるので、ぜひチャレンジしてみてください。
さまざまな機材を買わなければできないと思っていたのですが、これならすぐにできるかもしれません。トライしてみたいと思います。
今回は受賞記念ということで井上さんと別所さんと対談を行いました。お話をしてみていかがでしたか?
素晴らしい経験をさせていただきました。いち主婦が、ただ『子どもをかわいく撮りたいな』というところから始めたことが、このように広がっていきとても光栄ですしうれしいです。本当に写真をはじめなければ起こらなかったこと。世界がパッと広がった感じがします。
井上さん、僕らも同じですよね。最初はただ撮っていただけなのに、東京カメラ部10選に選ばれて世界が広がっていき、こうしてお話もさせていただいています。sakiland.jpさんも、どんどんそうなっていくと思います。ぜひ楽しんでください。
改めて、今回は最優秀賞おめでとうございました!
※Adobe、PhotoshopならびにLightroomはAdobe Systems Incorporated(アドビシステムズ社)の米国ならびにその他の国における登録商標または商標です。
sakiland.jpさんPROFILE
千葉県在住の二児の母。医療従事者として働く傍ら、カメラマンとしてキッズやファミリー向けの撮影を行っている。
四季の風景と共にこどもを撮ることが好きで、休日のたびに旬の風景を求めて関東近郊を飛び回っている。
