最優秀賞 nabecamさん 個人インタビュー

最優秀賞

nabecamさん 個人インタビュー

  • #写真

raytrek(レイトレック)は、東京カメラ部のサポートのもと、“Stylish Summer”をテーマとした『第7回 レイトレックフォトコンテスト』を2023年8月8日から同9月28日に開催し、「最優秀賞」「特別審査員賞」「優秀賞」の各賞を選出しました。最優秀賞を受賞されたnabecamさんに、受賞作品の撮影・レタッチの裏側、写真に対する取り組みなどを伺いました。

最優秀賞「into the GALAXY」

この度は「最優秀賞」の受賞おめでとうございます。受賞連絡が来た時の気持ちをお聞かせください。

第5回レイトレックフォトコンテスト「れたっち!レタッチ!retouch!」で優秀賞をいただき、それは本当に光栄だったのですが、やはり目指すべきは最優秀賞ということで、リベンジしたい気持ちを持ち続けていました。第6回の「わたしの唯一」にも応募していたのですが受賞には至らず…。ですから、応募数は3〜4作品に絞り、テーマに沿っているかを自分なりに熟考するなど、受賞を狙って気合いを入れて臨みました。選んでいただいた写真は自分の中でも印象的な一枚だったので、とても光栄に思っています。

「Stylish Summer」というテーマをどのように捉え、応募作を選んだのでしょう。

「Stylish Summer」と聞くと、海や夏空など、爽やかで夏らしい場面を想像する方が多いだろうと想像していましたが、自分は室内の写真でも夏らしい涼しげな印象を与えられるはずと考え、水族館で撮った写真を選びました。クラゲの水槽はまさに涼しげな雰囲気がありますし、クラゲが舞っている様子は一歩引いて見ると、まるで宇宙空間の無数の星のように見え、夏の夜空を見上げたときのようだなと感じたのです。

受賞作を撮ったときの状況、エピソードを教えてください。

このドームは狭い場所で、なるべく広く写したいと思い超広角レンズを使うことは決めていました。床のツルツルしたタイルはリフレクションに使えると思ったので、画面の半分くらいを反射に使うような構図にしています。またスカートのふんわりした感じを出すことで、クラゲの無重力感も表現しようと思い、とても暗い場所で光源が限られていたものの、シャッタースピードは1/200秒にし、代わりにISO5000の高感度で撮影しています。ふだんならばノイズを考慮して避ける感度でしたが、状況的にこう撮らざるを得なかったというところがありましたね。

受賞作品のレタッチのポイントを教えてください。

高感度ノイズの除去よりもホワイトバランスの調整に苦労しました。ふだんはWBオートで撮りつつ、白が白く見えるように、黒が黒く見えるように補正をかけています。今回はそれに加えて、色被りを消していき、抜け感や透明感が出るようなレタッチを心掛けました。光源自体は外側からの光だけでミックス光ではありませんでしたが、水槽の光自体がクラゲを照らすためのもので演色性が良くはなく、色味のクセを抜くのに時間を費やした感じです。

色被りの具体的な補正の方法は?

まずホワイトバランスで調整しましたが、それでも肌の色や髪の毛などが紫っぽくなってしまっていた部分は、マスクを使い部分的に処理しています。まず顔の血色を良くして、髪の毛の黒が黒に見えるようにマゼンタを除去しました。とても細かい部分ですが、スカートのハイライトも、白い光が当たっていることがわかるように細かく色被りを取っています。

仕上げまでにかかった時間は?

実は撮影したのは2020年で、3年を経て、今回もう一度現像をし直しています。作業自体は5〜10分ほど。ベースがある状態だったということもありますが、3年前のものと実際には大きく変わっていないです。この3年の中で成長した部分や、今の価値観の中で改めて見たときに、もう少しブラッシュアップしたい部分を中心に再編集しました。肌の色味やハイライト部分などに手を加えて、黒と青のコントラストをすっきり見せるように心掛けましたね。過去を否定するわけではなく、さらに良くするとどうなるか、別の見せ方はないか、というパラレルワールド的な考え方。進化というより、別バリエーションというほうが近いですね。気に入っている写真は何回もレタッチするほうだと思います。前はできなかったけれど今はできることがあるのではないかと考えたり、テーマを変えて現像をしてみたり。過去の考え方を記録的に振り返るという点でもおもしろいですね。

写真をはじめたきっかけを教えてください。

自分はデザイナーが本職です。美大に合格するために塾に通っていたとき、構図を取るのがとても下手で、講師に相談したところ写真を撮ると勉強になるよと。そこから写真をはじめました。写真自体は訓練のためにというのが率直なところで、必要に駆られてはじめたのです。いまも訓練のようなもので、ネガティブなところがスタートで自分は上手くないという気持ちが前提にあります。フォトコンに投稿するのも、自分を肯定するためだったり、現在地の確認だったりする節はありますね。

愛用しているカメラとレンズは?

SONY α7IIIとα7 IVです。レンズはFE 16-35mm F2.8 GM、FE 20mm F1.8 G、Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA、FE 70-200mm F2.8 GM OSS IIと、NikonのAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDです。元々Nikonも使っていて、このレンズだけは本当に好きでメーカーを変えても使いたいなと。受賞作はFE 16-35mm F2.8 GM、使用頻度が多いのはFE 70-200mm F2.8 GM OSS IIですね。

現像・レタッチをはじめたきっかけを教えてください。

構図は写真の骨格であり、見せ場を作るためのテクニックだと思っています。一方で写真の雰囲気を作り、世界観を作るのは色味。まず構図で目線誘導や写真自体のバランスを作り、自分が伝えたいテーマや世界観を作り上げるのは色味だと思うので、きちんと世界観を表現するために現像・レタッチも深めています。学生の頃からテーマを表現する上で、全てがスムーズに繋がっていくべきと教えられていました。写真で言えば構図や色味の繋がり、デザインで言えばテキストのフォントひとつとっても、全てが繋がっていないと世界観とは言えないと教えられ、それが身についています。ただし、最初は抵抗があり、写真をはじめた頃は撮って出しが多かったんです。撮って出しでクオリティを高めるという取り組みをしていたものの、やはり限界を感じ、最初はPhotoshopで編集をしていました。しかし、これにも限界を感じLightroomを使ってみたところ、スライダーの操作だけで自分の思う表現ができることに衝撃を受けまして、そこから本格的に勉強をはじめました。

レタッチの際に最も心掛けている点は?

写真を撮ったときのイメージやコンセプトに、いかにマッチできるかというところを非常に大切にしています。またポートレートを撮っているので、人肌が綺麗に見えるかというのも気にしており、アバターみたいに真っ青だったり、ハルクみたいに緑色だったりすると変だなと思いますが、周囲の状況で肌の色味も変わってくると思いますから、その写真の中で違和感がない肌になればいいなと思っています。

必ず手を入れる補正項目はありますか?

色被りの調整です。作例の中に紅葉の写真がありますが、肌にも影の部分にも紅葉の赤みが乗っていました。しかし、レタッチで赤みのある影の部分をマスクで選択し、黒い影になるように補正しています。実物からしたら嘘をついていることになるのですが、色味の綺麗さでは黒い方がいいのかなと。このような作業はいつもしていると思います。

SNSでは「色を言語化しましょう」というアドバイスを発信していました。これからレタッチを追求したい方にはオススメの方法でしょうか。

仕事の場合、チームや上司に説明するために言語化が必要になります。写真においても、彩度を落としてこの色を際立たせようとか、ここを明るくするとここが引き立つとか、理論的に色を言語化するのは僕にとって日常で、言語化は、目標を定める、作業を明確化する、という点で役に立つと思います。その代わりに、Lightroomのどのパラメータをいじれば効果的かを見極めることは必要。僕もパラメータをいじりすぎて訳が分からなくなった経験があるので、逆に全くいじらないパラメータを作ってしまうなど、役割分担をするようにしています。

PCの環境を教えてください。

数年前のモデルのデスクトップPCを使っています。Lightroomの使用は特に問題はないですが、4K動画の編集はプロキシを使うことでどうにかこなせています。自分はPhotoshopを使わずにスタンプツールでの補正のようなものですらLightroomでおこなうので、マスクの量が20〜30にもなり、以前使っていたPCだとカーソル移動のタイムラグも大きくなってしまい、作業にストレスを感じていました。クリエイティブな作業においては、意図をスピーディーに反映してくれる処理スピードに優れたPCは大切だと思います。しかし、PCのスペックアップ以上に4K動画もはじめたことでデータの保管方法が急務となっていて、NASの導入を最優先にしていました。ようやくNASを導入し容量問題が解決したので、またPCの増強も模索していけると考えていたところ、今回の受賞の副賞でraytrekの最新PCをいただけることになったので、ぜひ使い込んでいきたいと思っています。

最後に今後の抱負をお聞かせください。

まず自分の作風を見つめ直し、深くしていくという作業は継続してやっていきたいです。そして、その過程で得た知識を周りに効果的に広めていきたいなとも思っていて、セミナーなどの活動にて積極的に取り組むつもりです。また、最近は埼玉県のアンバサダーもやっておりまして、自分の能力を地域貢献や社会に還元したいと思っています。自分を高めるということと、周りに活用していただくということを活動の軸としていきたいです。

改めて今回は最優秀賞の受賞おめでとうございます!

※Adobe、PhotoshopならびにLightroomはAdobe Systems Incorporated(アドビシステムズ社)の米国ならびにその他の国における登録商標または商標です。

nabecamさんPROFILE

普段は色にまつわるデザインの仕事に携わり、週末フォトグラファーとして活動中。
ポートレートを主軸としながらイベント撮影 / 商品撮影 / 地方観光PRアンバサダー / 撮影や編集に関するオンライン・オフラインレッスンなど、自身の知識や経験が役立てられる場を拡げている。

nabecamさん

作品紹介